M&Aのための活動は、
会社の経営にメリットしかない。
企業成長のための戦略的M&Aを行った株式会社A.C.Oの事例
2018年4月、株式会社モンスター・ラボに株式譲渡をおこなった株式会社A.C.O.の倉島 陽一社長にお話を伺いました。企業成長のための戦略的売却を成功させた、倉島さんが語る「M&A成功のヒケツ」とは、一体どんなことなのでしょうか。
PROFILE
デザインコンサルティング企業
株式会社A.C.O.
代表取締役CEO 倉島 陽一
東京芸術大学美術学部建築学科卒業。設計事務所を設立。代表取締役退任後、A.C.O.創業と同時に入社し、2002 年同社代表取締役に就任。プロデュース、クリエイティブディレクション、コンサルティング担当しています。
2018年4月24日に株式会社モンスター・ラボに株式譲渡し、株式会社A.C.Oの子会社化が合意されました。
米国のM&A事例に、
デジタルの世界がさらにスケールするという予兆を感じて
―倉島さんが株式会社A.C.Oの株式譲渡を考えたのは、どんな経緯があってのことでしょうか。
2015年頃、米国のデジタルデザイン会社が、有名なIT企業に株式譲渡するなどの動きがいくつかありました。当時日本ではほとんど前例がなかったのですが、米国ではIT業界もエグジット戦略としてのM&Aが一般化しつつあり、このムーブメントに非常に興味が湧いたんです。
これから、デジタルの世界がさらにスケールするという予兆を感じました。
元気なデザイン会社が別の元気な会社と一緒になり、さらに成長していくという選択肢もある、と。
そんな、世界の中での業界の動きを垣間見て「勉強のためにM&Aについて考えてみよう」と思い立ちました。
当時、いろんなM&A仲介会社から営業の連絡が来ていたので「M&Aに興味はあるが、まずは話を聞いてみよう」という前提で会うことにしたんです。
決算書からはじき出される
“会社の価値”に違和感を覚えた
―実際に、M&Aの活動をはじめてどんなことを感じましたか。
M&Aを進めるにあたって、いくつかのM&A仲介会社から話を聞くことにしました。
M&Aというものを勉強して、当社にとってメリットが大きければ決断しようと考えていたので、当時から本気でM&Aをしようという意志があったわけではありません。
なのですが、多くの会社が「売る前提」でお話を進めていました。
少し戸惑いながらも、とりあえず話をきいてみようと様々な会社の担当者と会ってみました。
決定的に違和感を覚えたのは、うちの決算書をみて「御社の価値は、〇円です」と会社に価格をつけられたとき。
確かに、仮に私がすぐに売りたい前提で話を聞いていたとして、自分の会社の価格を知らなければいけないのは当たり前なのですが。
そのとき「そういうことじゃないのでは?」と違和感を覚えました。
決算書の数字が全てではない“人材”の業界
私は、業務の内容であったり、働く人材のスキルであったり、決算書だけでは測れないところにも会社の価値があると考えています。
とくにITや、クリエイティブの世界は決算書の数字が全てではないと思っています。
例えて言うなら、
引越ししようかどうか迷っていて不動産屋の広告を見ていたら、収入だけを聞かれて「あなたが住めるのはこの部屋とこの部屋です」と、いきなり言われるようなものです。
いやいや、ちょっと待ってって。まだ引っ越すかどうかも決めてないし(笑)。
そんな違和感を覚える打ち合わせが何度かあって。
素直に「まだM&Aをするかどうかも迷っている」ということを話すと「あ、そうですか」とすぐに退散する会社も多かったです。
皆さん、ノルマや見込み顧客の優先順位があるわけですから、仕方ないのかもしれませんがね(苦笑)。
当社の役員がつぶやいた「うちの会社は(M&A仲介会社の顧客として)対象外なんだね」という言葉が忘れられません。
質問攻めにされて、思考が整理されていった
―最終的に譲渡までの仲介をしたのはどんな会社でしたか。
M&A活動を始めて1年くらいたった頃に出会ったM&Aネットワークス(株式会社エスネットワークス)に、最終的には売却先を紹介してもらうことになりました。
少しうろ覚えではあるんですけど(笑)、確かお手紙を頂いたのがきっかけだったと思います。
先に話したように、いろんな会社とM&Aの話を進めている流れがあったので「とりあえず話を聞いてみよう」と思ったんです。
実際に話を聞いてみて思ったのは、
“とにかく、すごくたくさん質問してくる”です(笑)。
他の仲介会社ではなかったことなので、少し面食らってしまいました。
M&Aに対する考え方や、事業の方向性などを細かく聞かれました。
次第に「社長はどうされたいですか」と質問されるたびに、思考が整理されてくるのを感じました。
このとき、なぜM&Aなのか。M&Aによって会社をどうしていくべきなのか、ということに初めて真剣に向き合うことになりました。
「この会社は違うかも」と思い、話をもっと進めてみようと思ったんです。
M&A活動は、会社の経営にメリットしかない
M&Aを少しでも考えている企業は、具体的にM&Aに向けて話を進めてみると良いと思っています。自社の会社の価値や可能性を見通すことにもなりますし、他社の経営方針を知る貴重な機会にもなります。
M&A活動の中で非常に印象に残っているのは、エスネットワークス主導で行ったワークショップでした。
そこでは、役員、マネージャー陣も集めて、当社がM&Aをする意義や会社の方向性についてディスカッションをしたんです。
例えば「どんな会社と一緒になれば、当社の価値を最大化できるか」といったテーマで話し合いました。
同じような業態の大きなデザイン会社にジョインするという考え方もあれば、開発会社内のデザイン部門になるという選択肢も考えられます。
どんな会社と一緒になると、業界においてどんなポジションをとれるのか。
さまざまな業態・会社を例にディスカッションしました。
このディスカッションにより、
「当社は今後どの方向性を目指すのか?」
マネージャー・役員含めて、皆で同じ答えを導き出すことができました。
M&Aは全員で転職をするようなものです。
マネジメントレイヤーのメンバーも含めて、皆で同じ方向を見れたのは大きな前進でした。
また、M&A活動の中で、多くの会社の経営者層と面談をすることになります。
そこで他企業の経営方針や事業内容を包み隠さず聞かせてもらうことができます。
視野を広げることができ、成長や課題解決に必ず繋がります。
この絶好の機会を利用すべきだと思います。
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「この会社しかなかった」と思える
会社同士の出会い
役員、マネージャーとおこなったワークショップのおかげで、“開発会社のデザインコンサルティング部門になる”というイメージはできていました。
ですので、モンスター・ラボを提案されたときには、具体的にジョイン後のビジョンも見えていました。
モンスター・ラボは、当社が力を入れていたグローバルソーシングに対して、同じく大胆に展開する構想があり、当社としても強みを活かして大きくスケールできると確信しました。
当時、すでに2年近いお付き合いになっていて、私のことも良く理解してくれていたエスネットワークスのアドバイザーさんからも熱烈な推薦があり、モンスター・ラボとのM&Aを進めることになりました。
以前は当社とは合わないと思われる会社にはバッサリ『そことは進めない方がよい』とアドバイスいただいていたこともあり、この熱烈な推薦を素直に信頼できたところもあると思います。
決算書だけではない、“人ありき”のM&Aが実現できた
なにより、モンスター・ラボが“人を活かす”会社であること。
ITやクリエイティブの世界は、人ありきの仕事といっても過言ではありません。
人がいて、作り手がいて、だからそこに戦略が生まれる。
売る方も、買う方も“人が商品”であることには間違いありません。
モンスター・ラボでは、デザインという我々の専門領域に関しては、上流に立って活躍できる場も与えてくれています。当社にはなかった人材開発のノウハウを取り入れることで、業績も大きく伸ばすことも出来ています。
今思うと「この会社しかなかった」と思えるような会社に出会えたと感じています。
M&Aを成功させるヒケツは、
「できるだけ早く動くこと」
最後の最後にやめたっていい。
経営者が“勉強のため”と思ってポジティブに活動すること。
―倉島さんは、今回のM&Aの成功の理由をどのように分析していますか。
今回のM&Aをきっかけに、知人友人からM&Aについて相談を受けるのですが、皆に「さっさと動いた方が良い」と言っています。
最終的にM&Aするかどうかは、最後の最後に決めたって良い。
最後に「ごめんなさい、やっぱりやめました」となっても良いと思います。
M&Aの活動を通して、会社の成長のために得られることは非常に大きい。
そのためにもなるべく早い段階から、会社のキーマンたちも巻き込んで進めた方が良いです。
M&Aというと秘密裏に動くものだと思われがちですが、なるべく早い段階でキーマンたちを巻き込んだ方が良いと思います。
経営者同士が合意していても、現場の人たち同士が合わずに決裂するなんてよく聞く話です。
うちは、社長抜きのマネージャー同士で飲みに行ってもらいましたよ。そこで意気投合できたようです。
なによりM&Aは「全員で転職する」んですから、早い段階で経営者とキーマンたちが皆、同じ意志を持っていないといけません。
ただ、そのためには社長自身がM&Aをポジティブに考えていないと難しいと思います。
「M&Aおめでとう!」のメールから感じた時代の変動
実際、当社がM&Aされたことが公表されると、経営者の知人たちから「大丈夫?」という連絡がきました。M&Aとは心配させるようなことではないはずですが…ネガティブなイメージがあるのでしょう。
一方で、数人の経営者からはなぜか「おめでとう」って連絡が来たんですね(笑)。
「新たなステージに進んで、おめでとう」です。お祝いごとなんですね。
お祝いしてくれたのはサンフランシスコで起業している経営者をはじめ、わりと若手の人たちです。
対照的な連絡を受け取って、
このとき、日本のM&Aは過渡期に来ているのかもしれないなと確信しました。
これから、「IPOおめでとう」と同じように「M&Aおめでとう」という時代が訪れると、私は思っています。
登場する会社一覧
株式会社A.C.O
会社情報
会社名 | 株式会社A.C.O |
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URL | https://aco-tokyo.com/ |
本社所在地 | 東京都品川区西五反田3-8-3 町原ビル2F |
株式会社モンスター・ラボ
会社情報
会社名 | 株式会社モンスター・ラボ |
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URL | https://monstar-lab.com/ |
本社所在地 | 東京本社(日本/モンスター・ラボ) 東京都渋谷区広尾1-1-39 恵比寿プライムスクエアタワー 4F |
M&Aネットワークス
(株式会社エスネットワークス)
会社情報
会社名 | 株式会社エスネットワークス |
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URL | https://es-ma-networks.jp/ |
本社所在地 | 東京都千代田区丸の内1丁目8番1号 丸の内トラストタワーN館15F |
トピック:M&A仲介
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