景気回復の見通しが立たない日本の現状。市場の成熟化と加速する人口の減少に伴う市場の縮小など、日本の中堅・中小企業は非常に厳しい状況にあります。
また、少子高齢化や職業選択の選択肢が増えていることから、後継者不在の問題は深刻化。そんな中、新たな事業承継の選択肢として注目されているのがM&Aという方法です。
なぜ今M&Aの需要が高まっているのか、その背景とM&Aのメリットを解説します。
てみると、1億円未満の企業では70代~80代の社長が多く、その数は大企業の倍以上。年商500億円以上の企業では50代の割合が増えていますが、中小企業の経営者とは母数が違いすぎ、平均年齢を底上げするに至っていません。
また、2018年版「中小企業白書」では休廃業・解散企業の経営者年齢構成比が公開されています。2017年の構成比は2008年と比べて、「40代」は約3割減、「50代」は約5割減少、「60代」は約1割減と40代~60代が減少している一方、「70代」は約3増、「80代以上」になると2倍以上も増加しており、このことからも経営者の高齢化が浮き彫りになっています。そのためこれらの企業では、「高齢の経営者であること」「後継者が不在であること」も休廃業や解散をした理由に挙げられるでしょう。
株式会社帝国データバンクが行った「九州・沖縄地区の社長分析(2017年) 」によると、社長の平均年齢は1990年以降最高となっています。このグラフを見ても、やはり平均年齢は年々少しずつ上がっています。
交代率は、2013年の3.64%以降、アベノミクスの浸透により少し改善の兆しを見せましたが、人材不足などの影響もあり、ここ数年は停滞しています。
日本企業、特に中小企業の後継者問題は非常に深刻です。このまま多くの企業や事業者が次世代に事業を引き継げなければ、培った技術は失われ、従業員は路頭に迷います。雇用率は悪化し、日本経済は大打撃を被るでしょう。
(引用元)帝国データバンク「2017年 全国社長分析」 https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/s180303_80.pdf
社長の高齢化が進んでいるのは、後継者の不在が大きな原因となっています。
帝国データバンクの調査によると、60歳以上の社長の約半数が後継者不在と答えています。業種別に見てみると、建設業・不動産業・サービス業の後継者不在率が高く、それぞれ7割近い数字となっています。
売上規模別に見ると、特に小規模・中規模企業において、後継者を確保することが困難な状態となっており、その結果として高齢化が進んでいるということがわかります。
(引用元)帝国データバンク「2017年 後継者問題に関する企業の実態調査」https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p171108.pdf
これまで小規模・中規模企業は、家業として社長から子供へと承継されることが一般的でした。しかし少子化や市場縮小による将来性の乏しさから、跡を継がせることを諦める経営者も少なくありません。
また、従来であれば当たり前のように家業を継いでいた子供たちが、職業選択の多様化や価値観の変化などによって、別の道を選ぶケースが増えている、ということも考えられます。
これにより年間法人廃業数も増えており、2016年の1年間に解散・休廃業した会社の数は、この調査が始まった2000年以降最多となる29583件でした。
一方、2016年に社長が交代した企業を見てみると、前代表の平均年齢が67.1歳、新代表の平均年齢が51.1歳。前代表が60代半ばで世代交代を行い、16歳の若返りが見られました。
また、後継者がいると答えた企業の場合、後継者の割合は、子供が3分の1、配偶者と親族が3分の1、非同族の役員や従業員が3分の1となっています。
事業の承継を考える時、考えなくてはいけないのが人口の動態。日本の人口は数年前から減少しており、その減少幅は6年連続で拡大。30年後には今よりも約20%の人口が減少するといわれています。
(引用元)総務省統計「人口推計」http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2016np/index.html
平成27年~平成28年にかけての人口の増減率を都道府県別に見てみると、減少したのは47都道府県中40都道府県。特に秋田県・青森県・高知県は、人口減少率が1%を超えています。
国内の人口の減少は、国内市場の縮小と切っても切れない関係。大手企業では、海外に事業を展開する、あるいは新しい分野に参入するなどの動きが盛んに行われています。
しかし中小企業では、資金や人材の問題もあり、将来の展望を描くことができていない場合がほとんどでしょう。どうにか生き残りをかけたいと考えていても、後継者がいないことによって廃業に追い込まれる企業も少なくありません。
前述した都道府県別の増減率を見てみるとわかる通り、人口の減少は、特に小規模・中規模企業の多い地方への影響が大きく、厳しい経済状態となっています。
また年齢区分別の人口の割合推移を見てみると、65歳以上・75歳以上の割合が毎年増加しているのに対して、15歳未満の割合は減少。今後さらに人口減少が加速していくことが予想できます。
中小企業の事業承継を円滑にするため、国は制度面の整備や拡充を進める
最近加速している税制の動きは、事業承継にも大きく関わりがあります。相続税は2015年に改正され、税率区分が6段階から8段階に変更になりました。
課税強化が進む中、2018年度の税制改革では、「事業承継税制」が拡充されています。これにより、10年間の特例として、会社の事業承継にかかる費用が大幅に緩和されることになりました。
例えば経営者に万が一のことが起きてしまった場合、会社の経営に大きな支障を来すことはもちろん、家族には相続税という大きな負担がのしかかります。実際代表が突然死してしまったことにより、家族は自宅などの資産を手放し、納税に充てたというケースもあります。
会社の資産や自社株式は、すぐに現金化することはできません。納税のために多額の資金をどうやって用意するかは、経営者にとっても大きな問題となります。
事業承継税制は、事業承継をするのであれば、相続税や贈与税を大幅に免税するというもの。中小企業の経営者が後継者に会社を譲る際、税負担を軽減することでスムーズに引継ぎを進められるようにするために2009年に作られた制度です。
その当時は、制度を利用するための条件がとても厳しく、利用する人は多くありませんでした。そこで2015年の税制改革でその条件が緩和され、利用する人が少しずつ増えています。
2018年度の税制改革では、10年間の特別措置としてさらに事業承継税制を拡充。この制度を受けるための条件をクリアした場合、株式にかかる相続税、贈与税は全額免除されます。事業承継を行うなら、今が絶好の機会なのです。
(引用元)国税庁 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku/aramashi/pdf/02.pdf
前述の通り、日本の中小企業は、後継者問題や市場規模の縮小で廃業に追い込まれてしまう会社が増えています。
「廃業を選択することで多くの社員が失業してしまう」「大切に育ててきた会社だから無くしたくない」そう思う一方で、子供などの親族や従業員に事業を引き継ぐべきかどうか悩む経営者も少なくありません。
そんな中、新たな選択肢として増えているのが、その事業を必要としている第三者に事業を引き継ぐM&Aという選択肢。2000年代に入った頃から、事業承継の手段として、また事業を拡大していくための戦略の1つとして、M&Aを行う会社が増えています。
M&Aを行うことは、後継者問題を解決できる以外にも以下のようなメリットがあります。
創業者として守り成長させてきた事業を、信頼できる第三者に譲渡することで、事業を存続させることはもちろん、さらなる発展が期待できます。
敵対的なM&Aというものもありますが、大部分の取引は、WIN-WINの形で話がまとまります。信頼できる仲介パートナーが得られれば、買収・合併後のことまで踏まえて、納得できる解決策を提案してくれることでしょう。
(引用元)株式会社レコフデータ https://www.marr.jp/genre/graphdemiru
実はM&Aにおいて、「会社の成長や将来のために買収をしたい」と考えていた経営者の多くが、最終的には会社を売却する側に転じているといいます。一体それはなぜなのでしょうか。
会社を大きくするため、いわゆる成長戦略としてM&Aをするというと、買収する側の立場を思い浮かべる方が多いでしょう。会社を買収することで、売却した企業の顧客やリソースを獲得することができるため、会社を成長させることができるのです。
しかし中小企業の場合、買収できる企業の規模は限られてきます。小さな企業が同じくらい、もしくはそれ以下の企業を買収しても、企業としての劇的な成長は期待できません。
そこで有効となるのが、大手企業の傘下に入って成長するという戦略。大手の傘下に入ることには、小さな企業を買収した時以上の相乗効果が期待できます。事業としての成長や後継者問題の解決はもちろん、給与・賞与・福利厚生などの処遇が改善する場合もあり、従業員のモチベーションの向上にもつながります。
実際、事業承継を目的として会社を売却した企業の中にも、大手と組むことによって飛躍的に成長を遂げている会社が無数にあります。
M&Aを成長戦略として活用する時に大切なのは、買収か売却か、ということではなく、どんな会社とパートナーになるのか、ということです。自社に足りないものを補ってくれる、WIN-WINの関係が構築できる適切な相手と組むことができるかがカギとなります。
トピック:事業承継
更新日:2020-10-19