会社を売却する際には、一般的に売り手企業が買い手企業から対価として現金や株式を受け取ります。しかし、その利益をまるまる全て懐に入れられるわけではありません。なぜならば譲渡益には「税金」がかかるからです。
しかし、普段もらっているお給料とは違い、譲渡益は所得ではないのでは?と思う方もいるでしょう。では、会社売却の際にはどのような税金がかかるのか、順を追ってご紹介します。
会社を売却する方法は様々ですが、大きく分けて会社そのものを買い手企業に売るやり方と、特定の事業を切り離して売るやり方があります。ですが、実はどちらを選ぶかによってかかる税金が変わってくるため、注意が必要です。
会社売却は、基本的に「株式譲渡」という方法で行われます。これはM&Aの一種で、簡単に言えば売り手企業が自社の所有する株式を全て買い手企業に受け渡すことで経営権を譲る、といった流れです。
事業だけでなく会社の支配権まで譲る会社売却の場合、税金は「所得税」や「住民税」、「法人税」などが必要となります。これは株主が個人か法人かによって変わってくるので、押さえておきましょう。
所得税
株主が個人であれば、売却した対価は「所得」と見なされます。これは所得額に応じて変動しますが、会社売却の場合一般的には15%(正確には復興特別所得税を合わせて15.315%)かかるようです。
住民税
こちらも株主が個人の場合、住民税も同じようにかかります。住民税は5%なので、所得税と合わせると20%程度ということになりますね。
法人税(株主が法人の場合)
株主が個人ではなく、法人の場合は事業売却と同じく法人税がかかります。これは売却した際の利益から29%~42%程度かかるとされているため、所得税と住民税を合わせて支払うより高くなるはずです。
会社売却の場合は上記の通りですが、一部の事業を切り離して売る「事業売却(代表的なのは事業譲渡)」を選択したのであれば、かかる税金は以下の種類となります。
法人税
売却される事業を行っているのは法人なので、これは経営者個人の所得ではなく法人の利益と見なされます。よって、事業売却で対価を得たのであれば法人税(29%~42%程度)がかかるのです。
消費税
事業を売却した場合、消費税も発生します。イメージ的に買い手が支払うものじゃないの?と思ってしまうでしょうが、事業には資産や人材、ブランドなどの課税資産が含まれている可能性があるため、売り手側の収益から差し引かれるのです。2019年10月から10%に上がったことからも分かるように、消費税は増税の煽りを受けやすい税金であるため、事業譲渡はタイミングも重要であると言えるでしょう。
前述した通り、会社売却は株主が個人かどうかによって税金が変化します。では、それぞれどの程度の金額になるのでしょうか?一例から算出してみましょう。
個人が株主である場合には、「譲渡所得」から所得税と住民税が差し引かれます。譲渡所得は売却金額から取得や譲渡にかかった費用などを控除した後の金額ですから、個人に対する純利益という感じですね。
この譲渡所得から、所得税15.315%と住民税5%を足した20.315%を割り引きます。例えば売却価格が5,000万円、取得費が100万円、譲渡費用が300万円の案件だったとすると、税金は以下の通りです。
売却価格:5,000万円
取得費:100万円
譲渡費用:500万円
譲渡所得=4,400万円
所得税=4,400万円×15.315%=673万8,600円
住民税=4,400万円×5%=220万円
結果、税金の支払い額は673万8,600円+220万円で、893万8,600円ということになります。数千万円~数億円レベルの取引になると、税金がかなり高くつくということが改めて分かりますね。
法人が株主の場合は、譲渡所得から「法人税」が差し引かれます。
仮に法人税を30%として先ほどと同じ金額例で見てみると、
法人税=4,400万円×30%=1,320万円
思った以上に高い、と驚いた方もいるのではないでしょうか。株主が法人となるとこのように税金が大部分を占めてしまうこともあるので、経営者にとってのメリットも考えつつ方法を模索したいですね。
かかった税金は確定申告で処理するもの、というイメージが強いですが、実際には会社売却と事業譲渡で多少の違いが出てくるようです。
会社売却、かつ株主が個人の場合、税金は確定申告ののち一括で支払われるのが一般的です。個人が株式を売却したものとして処理されるため、タイミングとしては収入を得た翌年の2月~3月といったところでしょうか。
しかし、法人の場合は法人税がかかりますから、決算期末から2か月以内に支払うことになります。ただし、万が一売却額と株式の時価が大きく離れてしまった場合には、差額を贈与として追加徴税される恐れがあるようなので、充分注意しましょう。
事業譲渡のケースも同じことですが、消費税がかかる場合は確定申告の際に申請するのが一般的です。通常の確定申告とは違い、専用の申告書が用意されていますから、一度税務署に確認してみてください。
このように、会社売却で発生する税金は非常に高額です。では、どうにか節税する方法はないのか?というと、例えば以下のようなやり方があります。
譲渡金の一部を経営者の「退職金」として受け取る
まず、会社を売却した際、その対価として受け取る譲渡益の一部を「退職金」として受け取る方法です。これは譲渡所得と退職金、それぞれにかかる税金が別々だからで、譲渡所得に必要な税金よりも退職金で支払う税金の割合が低ければ節税効果が得られる可能性があります。ただし、もちろん全て退職金として受け取れるわけではありません。
取得費や譲渡にかかった費用を大きくする
税金はあくまでも「諸費用を差し引いた譲渡所得」から差し引かれるため、その前段階である諸費用の額が大きくなればなるほど純利益は下がり、結果税金も安くなります。特に注目したいのが「取得費」です。これは株式を取得するための費用ですが、詳しい金額が分からない時は基本的に5%で処理されることになっていますから、取得費が全体の4%以下である場合には5%で計算した方が得なこともあるのです。
会社売却の際には多額の税金がかかることが分かりましたが、支払いたくないからといっても節税対策には限度があります。虚偽の申告をしたり、存在しない経費を増やして申告したりするのは脱税にあたるので、注意が必要です。
M&Aには様々な手法が存在しますから、自社の規模や資産などを鑑みて、税金や利益率の面から最適な選択をしたいですね。
トピック:M&A
昭和47年群馬県伊勢崎市生まれ、神奈川県横浜市在住。平成7年に青山学院大学卒業後、佐々木哲夫税理士事務所(現在は税理士法人TOS佐々木会計)を経て、平成18年8月に神奈川県横浜市西区に事務所独立開業。
有森純税理士事務所(http://www.arimori.jp/)
更新日:2020-10-20