たとえば企業オーナーが亡くなった場合、手持ちの株式に莫大な相続税が掛かってしまうことがあります。これは株式自体の価値が高い場合に起こることですが、相続者は現金で税金を支払う必要があるため、金策に奔走することになるかもしれません。
こうした事態を避けるために活用したいのが、「事業承継税制」です。
事業継承に掛かる税金は、どういう方法で承継を行うかによって変わってきます。たとえば相続による承継の場合、後継者に相続税が課税されます。また、生前贈与による承継の場合、同じく後継者に贈与税が課税されます。
ほか、売買によって株式を譲渡した場合、譲渡代金分の所得税が現代表に課税されることとなります。
上記の承継方法の中で、もっとも節税につながるのは第三者への事業譲渡です。贈与税、相続税は取得金額に応じて変わりますが、多くの場合、株式の譲渡所得税額の税率(20%)を下回ることはありません。
ただしこの方法の場合、後継者に株式を買い取れるだけの資金があるのかという問題と、現社長の手元にキャッシュが増えてしまうという問題が発生します。
そこで、これまで一般的に取られていたのが、意図的に株価を下げて、そのタイミングで事業承継を行ってしまう方法。課税される金額が下がれば、その分支払わなければならない税金も低く抑えることができるというわけです。あまり褒められた方法ではありませんが、節税という意味では効果的と言えます。
しかし、最近になって、そうしたアクロバティックな方法を取らなくても、事業承継に課税される税金を100%免除できる制度が作られました。それが、事業承継税制です。
事業承継税制とは、相続などで会社の株式を得た場合、一定の条件を満たすことで、相続税の100%が納税を免除されるというもの。これは、贈与の場合にも適用されます。
相続税や贈与税はかなりの金額が掛かります。経営状況がよかったり、優良な会社であればあるほど、株価の評価も高くなり、相続税も高くなってしまいます。
この相続税や贈与税を負担するため、これまでは会社が後継者から自己株式を買い取り、そのお金で税金を納めるなどしていました。しかし、会社の借入金が増え、自己資本が低下するなどのデメリットが生じてしまいます。
「事業承継税制」は、こうした負担をなくすことができるのです。
事業承継税制が作られた大きな理由は、日本企業の後継者不足を解消するためです。
そもそもこの制度によって株式に課税される贈与税や相続税を免除する主な条件は、事業の後継者がいること。つまり、「次世代に事業を引き継ぐ代わりに、免税する制度」なのです。
業績のいい企業が、後継者がいないというだけの理由で廃業となるのは、その業界だけでなく、日本の産業界全体の損失です。長年にわたり築いてきたさまざまな企業価値が失われるのはもちろん、失業者が増えると、それが引き金となって経済が衰退します。
そうした自体を未然に防ぐために、後継者への引継ぎを促進しなければならないのです。
この制度自体は、平成21年の税改正で作られたものですが、利用者が増えず、条件が緩和されました。また、免除される税率も、平成29年まで80%だったものが、平成30年以降は100%に切り替わっています。
今が、もっとも有利な条件でこの制度を利用できるタイミングです。ぜひ詳細を把握して、活用を検討してみてください。
相続税の事業承継税制の適用要件は、以下の通りです。
第一に、会社が中小企業であることが条件です。具体的には、上場会社、資産管理会社、風俗営業会社、ペーパーカンパニーのどれでもなく、かつ以下の条件を満たしている必要があります。
事業を引き継ぐ経営者と後継者にも、満たさなければならない条件があります。といっても、条件は簡単です。
まず経営者は、会社の代表者であり、筆頭株主である必要があります。後継者は、3年以上取締役であり、会社の代表者となって、筆頭株主にならなければなりません。
会社の条件と、経営者、後継者の条件を満たせば、事業承継税制を利用できます。ただし、5年以内に以下のルールを破ってしまうと、免除された税金に利息を上乗せして支払わなければならなくなります。
5年が経過すれば、社長を退任したり、従業員が8割を切っても税金を支払う義務はなくなります。ただ注意したいのが、株式を売却してしまうと免除された税金(利息はなし)を支払わなければならないということ。
事業承継税制を利用して後継者となった場合、さらに次の世代へ事業承継税制でバトンを渡さない限り、免除はされないのです。
とはいえ、株式の価値は小さくありません。最終的に相続税が数千万、数億円免除されるのであれば、投資と考えて実践しても十分もとは取れるでしょう。
上記の通りメリットは大きいのですが、事業承継税制にもデメリットはあります。
それは、専門家が少ないということ。制度自体、まだ始まったばかりのもので、曖昧な部分も残されています。
細かい条件も無数にあるため、万が一それらを破ってしまった場合、手間を掛けたにも関わらず利息を上乗せして税金を支払わなければならなくなるかもしれません。
もしこの制度に興味を持たれたなら、まずはいくつかの税理士事務所に相談し、事業承継税制に強いパートナーを見つけられることをおすすめします。
トピック:事業承継
更新日:2020-10-21