M&Aの際「資本金の多寡は企業買収の難易度に影響しないのか?」という疑問の声が時折見受けられます。
実際には、資本金の金額自体は企業買収の難易度に影響しません。今回は、企業買収における資本金の関係をご紹介します。
企業買収は株主の合意がなければ実現しません。
買収する側の法人または個人は、買収される側の株主に対して希望金額を提示して譲渡に向けた交渉を行います。しかし、株主が首を縦に振らない限り株式は譲渡されません。株主の意向や思い入れもあるため、金額さえ妥当であれば買収できるわけではないことを理解しておきましょう。
買収される側の株主の合意を得るうえで必要なことは会社の価値の算出です。小規模な企業なら多少融通は利きますが、客観的評価があるほうが納得は得られやすくなります。そこで、一般的な会社の価格の算出方法を見てみましょう。
買収される予定の企業の営業利益をもとに、同じような営業利益を出す上場企業が証券会社からどのような評価を受けているかを見て1株あたりの価格を算出します。特に、類似企業が多いほど株価算出の精度は高く、予測もしやすいです。
買収される予定の企業が提示する事業計画を読み、将来の計画を想定しながら現在の1株あたりの価値を算出します。将来性を買った株価算出なので精度は高くありませんが、事業計画(株主が思う将来の会社の価値)をもとに算出するため株主側の納得は得られやすいです。
大企業同士でM&Aをするときは資本金が重要です。合併時、買収側の会社は買収される会社の資産を引き継ぎます。そのときの資本金の割り振りは厳格に定められているため注意が必要です。パターン別に資本金の引継ぎ方法を見てみましょう。
自社グループ外の企業を買収する方式の合併の場合、株式やその他の資産、負債を時価で算出し、割り振りを行います。
この場合、資産や負債、資本の割り振りは基本的に自由です。資本金も自由に設定して構わないので社会的信用を重視するなら多く、税務上の負荷(合併時0.7%の登録免許税が発生)を軽減するなら少なく設定しましょう。
債務超過会社と合併する場合、買収する会社が買収される会社の負債を受け入れることになります。その場合、買収する会社が資本剰余金や利益剰余金を減額して相殺するため、資本金は増加しません。
グループ内合併のケースでも自由に資本金を決定できます。そのため、支配目的の企業買収と同様の考え方で資本金を設定するとよいでしょう。
子会社同士で合併する場合、消滅する会社の資本金・資本剰余金は「その他資本剰余金」、利益剰余金は「その他利益剰余金」に振り分けます。新株発行などが行われないため、資本金や剰余金の増加はできません。
小規模な企業が大企業を買収する際、LBO(Leveraged Buyout)を行うケースもあります。買収先の資産やキャッシュフローと、自社のハイイールド債(格付けの低い社債)を担保に資金を調達する手法です。買収した企業の経営改善や資産売却によって負債を返済する方法で、資本金の少ない会社でも大きな会社を買収できます。
日本国内の有名なLBOの事例は、ソフトバンク社がボーダフォンの日本法人を買収したケースです。1兆円以上をLBOによって調達した結果、ソフトバンク社は携帯電話事業に参入できました。買収先と比較して資本金が少ない場合、LBOによる買収を検討するのもよいでしょう。
企業買収は大企業同士のみの話に感じるかもしれません。しかし、資本金が多いから企業買収ができるとは限らず、反対に資本金が少なくても企業買収することも可能です。自社の事業展開を検討しているなら、ぜひ企業買収を検討しましょう。
M&Aにおいて、会社の「資本金」を無視することはできませんが、絶対的な指標ではありません。通常は買い手企業が売り手企業と同等あるいはそれより大規模なケースが多くなっていますが、ときには例外もあります。
LBOやその他の手段により、小さな会社が大会社を買収できるケースもあります。また最近では、会社組織のみならず個人がM&Aを行うケースなどもみられます。
「自社は零細企業だからM&Aなど到底できない」と決めつけることなく、関心があるなら一度M&Aの専門会社に相談されてみてはいかがでしょうか?
更新日:2019-11-24