企業買収を成功に導くためのポイントの一つに、買収先企業の社員の雇用維持が挙げられます。売り手側企業のオーナーは、一般的に、買収条件として従業員の雇用維持を求めるものです。
一方で買収する側にとっても、売り手側企業の従業員は貴重な経営資源です。しかしながら、双方の思惑が一致していても、雇用維持はそう簡単にはいきません。
M&Aの際、一般的に雇用は継続して維持されると考えて問題ありません。そこには3つの理由があります。
第一の理由は、売り手企業のオーナーが、雇用の継続を絶対条件として売却に応じるケースが多いためです。買い手側企業が雇用維持の姿勢を見せないのであれば、そもそもM&Aは成立しにくいでしょう。
第二の理由としては、買い手側企業も売り手側企業の従業員を、貴重な人的資源と捉えているため。買収後もスムーズに事業展開をするには、売り手側企業の従業員が貴重な戦力となると考えているので、わざわざ手放すことはしません。
第三の理由は、労働基準法の問題です。たとえ買収という要因があろうとも、会社都合で従業員を解雇することは容易ではありません。トラブルを避けるためにも、買収を理由とした従業員の解雇は避けようとするものです。
雇用は維持されるとして、給料などの待遇面はどうなるのでしょうか。実のところ、待遇面はM&Aのスキームによって異なります。対象企業を完全子会社化する場合や合併、株式譲渡する場合などには、買収前後で待遇面の変更はありません。一方、事業譲渡の場合は買収元企業との雇用関係に移行するため、買収元企業と雇用契約を締結し直すことになります。
買い手側の企業はできる限り、売り手側企業の従業員を戦力として事業展開をしていきたいという思惑を持っているので、事業譲渡の場合でも、待遇を悪化させないケースが多数です。ただ、売り手側企業と買い手側企業の待遇面に大きな相違があるときにはもともとの自社従業員との公平性を保つ必要性があるため、一定の給与カットもありうるのです。
従業員の雇用を維持するためには、待遇面だけではなく「働きやすい環境づくり」が重要です。売り手企業の従業員はさまざまな不安を抱えているので、そういった不安を解消してモチベーションを上げることが企業全体の生産性の拡大につながります。
子会社として存続させる場合は、できる限り従来通りの人事制度を維持したほうがベターです。しかし、合併や事業買収のように会社が一体化するケースでは、双方の社員のモチベーション低下を防ぐ人事制度が必要になります。
こうした環境づくりも、M&Aのスキームによって異なります。
子会社として存続させる場合は、できる限り従来通りの人事制度を維持するのがベターです。合併や事業買収のように会社が一体化するケースでは、双方の社員のモチベーション低下を防ぐあらたな人事制度が必要になるケースもあります。
いずれの場合でも、カギを握るのは従業員とのコミュニケーションです。先行きが不透明な状態ほど、従業員を不安にさせることはありません。待遇面や雇用環境について情報をオープンにし、従業員と対話を重ねること。これにより買収に伴った人事制度に対する透明感を高め、従業員の就労意欲の向上を図ることができるでしょう。
買収を成功させるには、買収先が持つ取引先・技術・ノウハウの有効活用に加え、人材も大きな因子となります。しかし、M&Aに伴い買収先企業の雇用を維持することは、容易なことでもありません。従業員とのコミュニケーションを徹底し、買収によるシナジー効果を最大限に高める組織づくりが重要になります。
従業員は会社にとって重要な資産です。M&Aを成功させる二は、円滑な従業員の引継が必須と言えるでしょう。
売り手企業の従業員としては、解雇や減給などの心配をするケースが多数です。一般的にM&Aを理由とした解雇は行われませんが、減給など待遇の変更が行われる可能性はあります。
またオーナーが代わることを嫌った従業員が自主的に退職してしまうケースも少なくありません。M&Aを進めるときには従業員への配慮も忘れてはなりません。しっかりとコミュニケーションをとり、理解を得ながら進めていきましょう。
更新日:2019-11-25