元弁護士のライターとして、弁護士経験を活かし記事執筆に従事しています。(現在、弁護士会への登録を行っていないため「元」弁護士となります)
平成16年10月に弁護士登録。平成19年4月に法律事務所を開設。平成24年に体調不良により事務所を閉鎖。以後、法律ライターとして活動。
2019年8月29日、ソニーは自社が保有しているオリンパス株を全部売却すると発表しました。
ソニーが保有していたオリンパス株は約7,000株で、売却総額(時価)としては約800億円になるとのこと。
ソニーは過去にM&Aによってオリンパスと資本提携した経緯がありますが、今回はそのオリンパス株を売却して提携関係を解消する決断をしています。その背景にはどういった事情があるのでしょうか?
今回は、ソニーとオリンパスとの過去の資本提携から今回の関係解消に至る経緯や背景事情について、ご説明したいと思います。
そもそもソニーとオリンパスはいつ頃どういった経緯で資本・業務提携をしたのでしょうか?
それは2012年頃のことです。当時、オリンパスは過去の多額の損失隠しが明らかとなり、訂正処理のために財務状況が大きく悪化していました。
ニュースなどでも大々的に報道されたので、記憶にある方も多いでしょう。このとき、オリンパスは経営を建て直すために複数の企業と交渉を行い、最終的に、当時医療事業に力を入れていたソニーとの提携を決断してその資本を受け入れました。
このときソニーが出資した割合は約11%。その後2015年にソニーが約720億円分のオリンパス株を売却し、今回の売却までには約5%程度が残っていました。
今回、ソニーは残りの5%にあたる7,000株の売却を決定したのですが、いったいなぜ資本関係を解消することになったのでしょうか?
ソニー自身は「保有株ポートフォリオの最適化」と説明しています。売却によって得られる約800億円の用途についても特に決定していないとのことであり、株式売却によって早急に現金が必要なわけでもなさそうです。
実はソニーは、アメリカ投資ファンドである「サード・ポイント」に株式を保有されています。そのサード・ポイントが株主としての立場から、ソニーに対して半導体事業の分離や子会社であるソニーフィナンシャルホールディングス、オリンパスやエムスリー(医療情報サービス)などの売却を強く求めていたのです。
ソニーとしては、半導体事業を自社の成長戦略の柱ととらえているので、その分離の要求に応じることは避けたかったと考えられます。そこで次善の策としてオリンパスの売却要求に応じることで、サード・ポイントの理解を得ようとしたのでしょう。
なおソニーはオリンパス株を売却した後も、これまで共同で展開してきた医療事業については連携して継続するようです。ソニーとオリンパスは2013年に共同出資によって医療事業を行うための会社を設立しており、その会社の事業は存続します。
今回、ソニーは過去のM&Aによって資本提携したオリンパスとの関係を解消する決断をしました。
このことからわかるのは、いったんM&Aによって資本提携関係を作っても、永遠に続くわけではないということです。今回のように、買収会社の株主の思惑によって提携関係が解消される可能性もあります。
M&Aを行うときには、あたかもそれがゴールのように思えますが、M&Aはプロセスに過ぎません。その後のことまで見据えて実施する必要があるのはもちろんのこと、将来的に予想外の事情によって解消する可能性もあることを忘れるべきではないでしょう。
今回のソニーとオリンパスの資本提携と解消の流れからは、M&Aの意味や効果に関してもいろいろと学ぶところがありそうです。
更新日:2020-03-09