元弁護士のライターとして、弁護士経験を活かし記事執筆に従事しています。(現在、弁護士会への登録を行っていないため「元」弁護士となります)
平成16年10月に弁護士登録。平成19年4月に法律事務所を開設。平成24年に体調不良により事務所を閉鎖。以後、法律ライターとして活動。
ベンチャー企業経営者がひとまず目指すゴール地点として、従来は「IPO」が一般的でした。
しかし最近では「M&Aによる株式売却」が出口戦略の選択肢に加わってきており、すでにアメリカでは、80%近くのエグジットがM&Aで行われていると言われています。
この流れについて、日本も例外ではありません。
以下ではベンチャー企業の出口戦略としてIPOが良いのかM&Aが良いのか、両者を比較していきたいと思います。
IPO(Initial Public Offering)とは株式の新規公開です。それまで未上場だった株式会社が証券取引所に上場し、新たに株式を公開して市場取引を可能とします。
上場すると、企業は金融市場から広く資金を調達できるようになります。それまでは不可能だった高額な資金の調達も可能となり、さまざまな事業投資や設備投資などできるようになるでしょう。
また上場すると信用性も高まり、取引や借入などもしやすくなります。
上場すると、投資家や社会に対する重い責任を負います。株主からいろいろな意見を言われますし、不祥事があると株価が下がったり上場を廃止されたりするペナルティを科されます。経営も一層慎重に行わないと株主や債権者から損害賠償請求を受けるおそれがあります。
また上場には慎重な準備が必要なので、最低でも3年程度の期間がかかります。
M&Aは、企業の買収や合併です。ベンチャー企業の出口戦略としてM&Aを利用する場合、基本的に経営者が所有する株式を全部売却して対価を獲得します。その後リタイアすることも可能ですし、別事業を始めることも可能です。
M&Aが成功すると、所有している株式が高額なキャッシュに変わります。当初の投資資金を大きく上回る利益を手にし、若くしてハッピーリタイアも可能となるでしょう。
またM&Aの場合、IPOと比べて事前準備はさほど要求されません。スムーズに話が纏まれば数か月程度で企業を売却できるケースも少なくありません。
さらにIPOが難しい小規模事業や特殊な業種などでもうまくマッチングすればM&Aは可能です。
M&Aをすると、基本的に経営権を買い手企業オーナーに移すので、自分は会社経営から外れます。その後どんなに企業が成長しても、M&A後に得られた利益はすべて買い手企業のものとなってしまいます。
また買い手企業がうまく買収企業をコントロールしてくれない場合、買収された自社部門を廃止され、苦労して育ててきた会社が跡形もなくなる可能性があります。相手の経営方針により、ようやく知名度の上がってきた自社のブランド名・商標名を消されてしまっても文句を言えません。
IPOにもM&Aにもどちらにもメリット・デメリットがあり、一概にどちらが良いと決めることはできません。企業の状況、業種、規模、オーナーの考え方などによって個別に検討すべきです。
たとえばそもそもIPOできそうもない事業や規模の企業であればM&Aを検討すべきでしょうし、今後も自らが第一線に立って企業を統率していきたいならIPOを選択すべきです。
もしも自分だけで決められないのであれば、一度M&Aの専門家(アドバイザーや仲介会社など)、IPOの専門家(コンサル会社やベンチャー支援の弁護士、公認会計士、社労士など)に相談して話を聞いてみると良いでしょう。
更新日:2020-02-27